私好みの新刊 2023年8月
『このあな なんじゃ−ちそうのせいこんかせきへん』
いずみけんたろう/さく みぞぐちともや/え 仮説社
「このあななんじゃ」シリーズの3冊目。今度はちょっと一般にはなじみのない
〈生痕化石〉の話である。〈生痕化石〉とは動物などの体化石とは違って、その
動物が生活していた痕がわかる痕跡です。ふつう貝殻や骨など動物が亡くなると体
の固い部分は化石として残りやすい(長い間にはカルシュームが鉱物に置換される
こともある)。それらに比べて動物の足跡とか、糞とか、海底動物が砂地に潜った
痕跡とかが運よく地層中に保存されていることがある。著者はその中でも糞化石
〈ウンチ化石〉を研究している研究者だ。最近はウンチ化石からそのうんちをし
た動物も特定できるという。(泉賢太郎著『ウンチ化石学入門)
この本は、地層や干潟にある生痕化石を幼児から大人まで楽しく見つけられる
ように構成した絵本である。別に〈生痕化石〉という意味は知らなくても楽しめる。
まるで宝探しのように。最初は地層に埋まっている海や骨の化石イラストが出る。
地層にはこうした化石が埋まっていることを思い出させる。こんどは地層面に見え
ていたなにか不思議な形が出る。「なんじゃ なんじゃ このあな なんじゃ」
という合言葉につづいて、伏せてある紙をめくると・・肉食恐竜の足跡と出る。
同じように6例ほど後に続く。特異なものは、三葉虫のはいまわった跡の化石。
何億年も地層の中に残っている例もあるらしい。もう一つ特異なものは岩の割れ
目にある微小化石。今は微小化石の成分まで分析できるのでこんな研究も可能に
なった。最後に各化石の簡単な解説が付けられている。見開きに『「生痕化石の
研究」ってなんじゃ』が簡単に書かれている。「まるで探偵になったみたい・・」
と著者も楽しそう。 2023年 5月 1500円
『カワセミの暮らし』 笠原里恵/著 森本元/監修 緑書房
都会でも川原などでよく見かけるカワセミ、翡翠とも書かれる。「鳥の宝石」
とも呼ばれ青や緑などに輝いてじつに美しい鳥だ。そのカワセミについてあれこ
れ書かれた本で中学生ぐらいから読める。最初にカワセミの基本的な体系につい
て書かれ、あの美しい羽根の色構造色によると豆知識にある。普通、物に光が当
たってはね返してくる反射光をわれわれは見ているが、カワセミの羽根はスポン
ジ層になっていて、光が当たるとさまざまに変化して色が見えてくるという。こ
れを構造色という。カワセミは求愛の印に給餌をするらしい。あまり見かけない
がほほえましい。オスがメスに小魚等を受け渡すという。
カワセミの巣は土手に作られていることはよく知られているが、その巣につい
てくわしく観察した記録が書かれている。巣穴ほりにも、できるだけ天敵を防ぐ
などの工夫もされているし水没の危険性のない所を選んでいる。ひなは5,6羽は
育つという。カワセミに人気があるのは、あのダイビングの姿だろう。枝の上に
じっと止まり水面をながめてはさっと飛び込んで獲物をつかまえてくるしぐさは
いつまで見ても見飽きない。その採食行動につてもくわしく書かれている。カワ
セミの採食行動には、待ち伏せとホバリングがあるという。なるほど、よく見る
光景である。えさは小魚の他、エビ、ザリガニ等があるらしい。海外の資料とも
比べられている。カワセミは留鳥かと思われるが、寒い地方のカワセミはかなり
移動しているようだ。北欧、東欧では海を越える渡りもするようだ。親から独り
立ちした若鳥は親の縄張りから出ていく。海外ではかなり移動しているようだ。
カワセミ以外にも水辺で魚をねらう鳥も紹介されている。
最後に、カワセミの住む環境にもふれられている。外来種の増加やマイクロプ
ラスティク等の増加の問題もある。生き物に配慮した川づくりも大切である。こ
れからいつまであの美しい姿を見せてくれるかずっと見守っていたい。
2023年4月 2200円